「働き方に"選択の自由"を」産総研・女性研究者が考える"働きやすさ"とは?-前編-

「働き方に"選択の自由"を」産総研・女性研究者が考える"働きやすさ"とは?-前編-

2019年9月11日
編集部

日本最大級の公的研究機関「産総研」をご存じですか? 正式名称は「国立研究開発法人産業技術総合研究所」。あまり馴染みがないかもしれませんが、実は私たちの生活をより豊かにするための研究が行われている「暮らしを支える研究所」で、女性研究員も活躍中らしい! そこで、同研究所のダイバーシティ推進室にお話を伺いました。


今回訪れたのは、茨城県つくば市にあるつくばセンター。全国に展開する同研究所の中心として研究を推進することはもちろん、研究人材の育成や、研究の成果をわかりやすく一般公開する展示施設「サイエンス・スクエア つくば」の運営など、地域から国際社会まで視野に入れた活動にも力を入れているそう。

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産総研つくばセンター

お話してくれたのは、藤村友美さん。人間拡張研究センターの主任研究員を兼務しながら、ダイバーシティ推進室の企画主幹を務めているワーキングママです。

表情の研究で心理学分野に貢献

──今日はよろしくお願いします。まずは、藤村さんについて教えてください。

私は、人間拡張研究センターで、心理学の観点から人間の感情やコミュニケーションについての研究をしているのですが、一年間の期限付きで、今年の4月から総務本部ダイバーシティ推進室に所属しています。

──人間の感情やコミュニケーションについての研究……! どのような内容なのか簡単に説明していただけますか?

はい。心理学の分野における表情研究です。例えば、目の前の人が笑顔になると、自分もつられて笑顔になることってありますよね。これを「笑いの表情模倣」と言うのですが、模倣がおきやすい人ほど共感性やコミュニケーション能力が高いという説があります。

私はその表情模倣の研究をしているのですが、会話をしながら表情を測定するのではなくて、被験者の顔に電極を貼り、様々な表情の写真を見せて、表情筋が反応するかを調べています。「写真を見ただけで、本当に表情が動くの?」と考える人も多いと思うのですが、目に見えないレベルで、頬の筋肉がわずかに反応します。

そして、最近の研究テーマは、「人を信頼しているかどうかは、表情模倣に現れる?」です。例えば、人と会話をしていて、相手が笑うと自分もつられて笑ってしまうことってありますよね? 当たり前のことのようですが、実は、信頼してない人に対しては反応しません。信頼していない人が笑っても、頬の筋肉が全く反応しない。こうしたわずかな表情の動きから、人間関係やコミュニケーションの良しあしを定量化することが、最近の研究テーマです。

──もしかして、今お話させていただいている私も表情から何かを読み取られているのでしょうか……!?

よく言われますが、全然わかりませんので、安心してください(笑)。

そもそも、私が表情の研究を始めたきっかけは、自分がすごく顔に出やすいタイプだからなんです。表情を操作して本心を隠すことが得意な人もいますが、顔は言葉よりも正直です。そして、言葉は通じなくても、笑っている顔や怒っている顔は、基本的には万国共通なので、人の心の動きを研究するのにはとても面白いなと、興味を持ったんです。研究結果は、感性工学や、具体的には、サービス産業における接客スキルの構築などに活用できるのではないかと期待しています。

ダイバーシティ推進室って、どんなところ?

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緑に囲まれた同施設。日本最大級というだけあってとても広い!

──現在所属されているダイバーシティ推進室とはどのような部署ですか?

総務本部タイバーシティ推進室では、年齢、性別、国籍等、さまざまな属性を持つ人々が個人の能力を最大限に発揮できる働きやすい環境を作るための活動を行っています。

例えば、今年度は、介護や育児で時間制約のある研究職員を対象として、補助業務を行うための雇用費を補助する制度ができ、運用をしています。保育所のお迎えや病院の付き添いで、これまで通りの研究時間が確保できない場合に、実験やその他業務を助けてくれる人がいると安心して研究に打ち込むことができます。

そのほか、女性研究者の積極採用のため、女子学生向けのイベントを企画を行ったり、介護や育児に関するセミナーや、情報交換を目的としたランチ会を開催し、職員のネットワークづくりを支援しています。

ダイバーシティ推進というと「女性活躍支援」というイメージがありますが、女性に関わらず、育児や介護などさまざまなライフイベントに直面している人や、外国人、多様な価値観をもつ人が、働く上で抱える課題を一緒に解決していくことが必要であると思っています。

──なるほど。働く人の多様化を目指すと、それに比例して性別や国籍、家庭環境などに応じた様々な課題が出てきますよね。そもそも、研究職は働きやすい職種だと思いますか?

そうですね。研究機関に限らず、大学などでも研究職は基本的に裁量労働制が多いので、働きやすいと思います。自分で自分を管理しながら仕事ができるのは魅力だと思いますし、ライフステージが変わっても仕事を続けやすいと思います。実際、産総研でも産休・育休後の復帰率もほぼ100%で、離職率はとても低いです。

──女性研究者の採用にも力を入れているとのことでしたが、研究者を目指す女性が仕事と暮らしを両立させていくために、大切だと思うことはありますか?

自分の中のライフイベントにおける優先順位をはっきりさせておくことが大事かなと思います。女性研究者は、結婚や出産、就職や異動などの大きなイベントが同時期にやってくることがあります。人生の岐路に立った時、選択に迷うことはたくさん出てきますが、「自分は今、何を優先したいか」がはっきりしていると、少しは心が楽になると思います。

例えば、出産するときも「しっかり育児休業をとって子どもとの時間を過ごしたいのか、早く復帰して研究現場に戻りたいのか」と、どの選択をするか悩むと思います。でも、自分が何を大事にしたいのかを整理しておけば、迷いも減るし、外部からいろいろと言われることがあっても、心を強く持てるんじゃないかなと思います。

──藤村さん自身も、結婚や出産などを経験してライフステージが変わっていく中で、仕事への向き合い方に変化はありましたか?

そうですね。リスク管理をとても意識するようになりました。それまでは、締め切りギリギリで仕事をすることもありましたが、息子が産まれてからは、子どもの病気などで急に休まなければいけない場合を想定して、前倒しで進めるようになりましたね。

あとは、仕事の穴を極力あけないようにはするのですが、もし、穴があいてしまった場合でも代行してもらえるよう周囲に相談しています。同僚や仕事関連の方に迷惑をかけないようにしようという意識が高くなりました。それでも、できないことも多いんですけどね(笑)

>>>働き方に選択肢を! 産総研・女性研究者が考える"女性の働きやすさ"とは? -後編-

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