会社員のためのお医者さん! 産業医の役割や実践するリフレッシュ方法を教えて!--前編--

会社員のためのお医者さん! 産業医の役割や実践するリフレッシュ方法を教えて!--前編--

2019年4月25日
編集部

近年、働き方改革の推進に伴い、注目度向上中の「産業医」。そこで、産業医グループこころみを運営している松谷将宏先生に、企業における産業医の役割や先生自身が実践するリフレッシュ方法について聞いてきました。

■産業医って、何?

産業医とは、日本医師会の言葉を引用すると、「事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師」のこと。会社員のためのお医者さんだということはわかるけれど、具体的にどんな仕事をしているの? 先生、教えてください!

──産業医の具体的な仕事内容について教えてください。

企業で働く皆さんの健康管理や作業環境の管理などを担当します。労働者が50人以上いる拠点には必ずいなければいけないと法律で決まっています。でも、それ未満の規模の会社も産業医は関わるべきだと考えていますし、実際50人未満の会社の産業医も担当していますよ。

──作業環境の管理にも関わるんですね。会社員の心のケア専門なのかと思っていました。

そう思われがちなんだけど、作業環境を管理するための職場巡視として、デスクワークの姿勢とかオフィスの空調やカーテンの有無をチェックすることもあるんですよ(笑)薬品を扱う企業の場合は、作業場や、扱う薬品の濃度の確認もしますし。あとは、健康診断のチェックとかね。健康診断の数値的なところは病院の医師が担当しますが、その結果をみて、その人が問題なく働くことができるか、また、作業量が本当に適切なのかを判断するのは産業医の仕事です。

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■「産業医」を選んだ理由

──先生は、どうして産業医になったんですか?

軽く経歴を説明すると、大学卒業後、大学病院で研修医を2年間していました。その間は、内科や外科、麻酔科、救急科とかなんでも勉強する期間で、麻酔科や救急外科は、割と性に合っているなと思っていましたね、手を動かすことも好きだったし。とはいえ、精神科に進んだんですけどね(笑)

研修医の時、同じ病気を患っているのに表情が全然ちがう患者さんがいたんですよ。すごく辛そうな人と、元気にしている人と。それで「向き合い方がちがうだけで、こんなに違うんだ!?」って、メンタルの重要性を感じたんです。そこで、まずは精神科について幅広く勉強しようと思い、精神科救急医療の現場で通算5年ほど働きました。その後は街中のメンタルクリニックなどで勤務したのですが、そのときに、会社員の患者さんが多かったことから、「彼らの悩みを、もっと組織の経営や制度という観点から改善したい」と考えて、産業医を始めました。

あとは、普通のお医者さんだと、診察室で待っていないと患者さんに会えないパターンが多いでしょ? でも、産業医は、複数の会社に自分で出向いてお手伝いすることができるから、そこもいいなと思いました。自分の足を動かせるというのも、性にあっていたんでしょうね。

■メンタルの不調は、誰にでも起こりうること

──先生のところには、どのような人が相談に来るんですか?

老若男女問わず! メンタルの不調は、誰にでも起こりうることですからね。本人が直接相談にきたり、問題を抱えている社員の上長から相談がきたり、ストレスチェックの結果から面談をするケースもあります。一般社員だけでなく、取締役レベルの方が相談にくることだってありますよ。

悩みの内容は、やっぱり職場での人間関係が多いかな。あと、発達障害の傾向があるということに、本人も含めて気づかないままで、適切でない仕事を任されていたりすることも、結構ありますね。その場合は、どのような仕事の任せ方が、本人にとっても周りにとってもちょうどいいのかを相談して、判断します。

また、面談の結果、休職が必要そうな人の場合は、まず病院を受診してもらって、その診断をもとに人事と本人と産業医の三者面談をします。先の予定を何も決めずに休職すると、「いつ、どうやって復帰するのか? そもそも治るのか?」と、より不安を感じてしまう人もいるので、その場合は事前の面談で大体の復帰イメージについても話し合います。「同じ現場だったら絶対むり!」と感じている人も多いですから、まずその悩みを取り除いてあげることもあります。

逆に、「仕事がイヤで仕方ない!」って拒否反応が出ている人の場合は、復帰のことは考えず、仕事からしっかり距離をおいて1~2カ月休養してもらいます。その他にも、残業の制限や時短勤務など、方法はたくさんあるので、その人に最も適した方法を選びます。

──従業員が少ない企業だと、産業医がいないことも多いと思うのですが、その場合に起こりやすい問題はありますか?

そうですね。規模に関わらず、産業医がいる会社はまだまだ少ないです。産業医自体の数が少ないということもあるんですけどね。産業医がいない企業の場合は、人事部の方がその役割を担おうとしていることが多くて、その結果、人事部の方が悩みを抱え込んでしまうパターンも多いです。

悩みを抱えた社員が人事部にきて、「他の人には言わないで」って相談しますよね。すると、相談を受けた人事部の人はもう誰にも言えないし、相談もできない。でも、もちろん、人事部の人は専門家ではないから、相談されてコメントを言うのも難しいし、全てを解決できるわけでもない。余計につらい立場ですよね。

そんな時、第三者としての産業医がいれば、病気やメンタルヘルスのこともよくわかっているし、他言もしないので、人事部の人も安心して相談できます。まあ、その産業医と相性が合うかという問題はありますけど……。人事担当者の気持ちの負担を軽くしてあげるということも、産業医として大切な仕事のひとつと思っています。人の心に関わる人は、先ず自分の心を軽くしておくのが一番大事なポイントですから(笑)

全てのメンタルヘルスの問題は、応用問題だと思うんです。だから、応用問題を解くために、他の人の力もぜひ借りてほしいですね。

執筆者プロフィール
profile

大阪府立高校卒業し、和歌山県立医科大学を卒業。大阪市立大学医学部付属病院にて初期臨床研修後、精神科医として大阪の精神科救急病院に勤務し、精神科専門医・精神保健指定医を取得。その後、都内複数のメンタルクリニック・スリープクリニックに勤務しながら、大阪・東京で産業医活動を幅広くう。平成28年、(株)産業医グループこころみを設立。