"働きたくても働けない"を打破したい! 長野県駒ヶ根市が取り組むテレワーク事業とは? -前編-

"働きたくても働けない"を打破したい! 長野県駒ヶ根市が取り組むテレワーク事業とは? -前編-

2019年12月10日
編集部

「妊娠や出産を機に7割の女性が働くことを諦めざるを得ないんです……」そう話すのは、長野県駒ヶ根市役所の林さん。駒ヶ根市に限らず、同様の課題を抱える地方自治体は少なくないのではないでしょうか? このような現状を打破すべく、駒ヶ根市が取り組む「子育て世代の"働きたい"を応援する」テレワーク事業をご紹介します。


駒ヶ根市って、どんな場所?

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「高烏谷山」から眺める駒ヶ根市

長野県南部に位置する駒ヶ根市は、東に南アルプス(赤石山脈)、西に中央アルプス(木曽山脈)を望むことができる自然豊かな町。近年では、首都圏の企業がワーケーションで訪れたり、有名アーティストのミュージックビデオの撮影が行われたりと、年間およそ125万人ほど訪れるそうです。

そんな駒ヶ根市ですが、冒頭に述べた通り、"働く"ということに関しては深刻な課題があるそうで……。それは、「ライフステージの変化に雇用が対応できていないこと」。同市の雇用の中心は、基幹産業である製造業なので、オフィスワークの雇用が少なく、育休や時短勤務などの制度を整備していても、家庭の事情に応じたシフト変更や配置転換が難しく、実際に取得することは困難な企業も多いそうです。

そこで、解決策として同市が取り組み始めたのが「テレワーク事業」。働きたくても働けない子育て世代の女性が時間や場所を選ばずに働き、収入を得ることができるシステムの構築を目指して始動しました。それでは早速、同事業がスタートするまでの経緯と実際に働いているテレワーカーの感想を聞いてみましょう。

「子供との時間は有限」と気づいて、移住を決意。

最初にお話を伺ったのは、同市で駒ヶ根テレワークオフィス「koto」を運営する梶田さん。同事業をきっかけに駒ヶ根市に移住してきたそうです。

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駒ヶ根テレワークオフィス「koto」共同代表の梶田さん

──本日はよろしくお願い申し上げます。まずは梶田さんが駒ヶ根市でテレワークオフィスを運営することになった経緯を教えてください。

梶田さん:私はもともと東京で20年近くサラリーマンをしていました。前職はクラウドソーシングのサービスを運営している会社で、たまたま駒ヶ根市に「テレワークセンターをつくりたい」という意向があって、ちょうど私も「東京以外のところに住んでみたい」という思いが強くでてきた時期だったこともあり、やりたいと手をあげさせていただきました。

──東京を離れたいと思ったのには、どのような理由があったのでしょうか?

理由は主に3つありました。まずは仕事。私がいたIT業界は特に変化が早過ぎて、年齢とともに、感覚としてついていくことが難しくなってきたんです。例えばですけど、「Facebookがどうやって儲かって、なぜメルカリみたいなサービスがうまくいくのか?」とか、よくわからなくなってきたんです。その点では、自分より年下の若い部下たちの方が圧倒的に考え方が柔軟で、どのように売り上げをあげていくかという発想も、僕よりもはるかに洗練してわかっていると感じていました。

しかし、僕には、これまでにIT業界で培った知識やスキルがあったので、それを別の形で還元できるのではないか。 IT業界が集中している東京を離れて、もっと新しいチャレンジをできるのではないかと考えたんです。

それから、2つ目の理由は家族です。自分の子供が幼い頃に大きな病気を経験したこともあり、「子供との時間は有限だ」という意識が強くなりました。東京でサラリーマンをしていた頃は、どうしても仕事中心の生活で、「もっと家族と過ごしたい」という気持ちがあるにも関わらず、家族との接点や共有できる時間が少なくなることに対してのストレスを感じるようになって……。

もちろん、この問題については、地方に移住することで解決できるかどうかはまた別問題です。しかし、地方に移住することは生活を見つめなおすきっかけにもなるし、自分の理想とする子育てに近づけるのではないかと思ったんですよね。

そして、最後の理由は、単純に「東京に飽きたな」と(笑)。もう40年間、東京で暮らしたので、また別の生活をしてみたいなと思ったんです。

──梶田さんと初めてお会いしましたが、すごく生き生きしていらっしゃるというか。移住後も暮らしやすいんだろうなという印象を受けますね。

梶田さん:ストレス減りましたよ~! 満員電車とも無縁の生活になったので、時々、新宿とか行くと人の多さにビックリします(笑)。移住後も、仕事も問題なくできますし、しいて言えば、実家に帰るのが遠くなったことが不便なくらい。東京で働いていた時には考えられないですけれど、現在は子供の学校のPTAまでしてるんですよ(笑)。

ミッションは「テレワークで地方創生!」

──ご自身も積極的に子育てに取り組めるようになったんですね! 前述したとおり、駒ヶ根市では妊娠・出産を機に7割の女性が仕事を辞めなければいけないという課題を抱えていたそうですが、これらの問題を解消するためにテレワークセンターを開設するという話をきいたとき、実現可能だと思いましたか?

梶田さん:働きたくても働きづらい育児世代や家族の介護が必要な方などを対象にしたテレワークセンターということであれば、自分が関わってきたクラウドソーシングで実現できるイメージがあったので、「これはいけそうだな。」と思いました。

でも、もし駒ヶ根市が農村地帯だったら、難しいと思ったかもしれません。これまでにも公共事業として複数の地方でクラウドソーシングを使った働き方についてのセミナーなどを通してアプローチを行ってきましたが、農村地帯だと、業務でパソコンを使うことがほとんどないため、ITリテラシーの面でも、産業構造としても、とても難しかった印象がありました。

しかし駒ヶ根市は、山間部ではありますが、養命酒造をはじめとしたメーカー工場や研究所が進出しているエリアなので、勤務者やその家族も含めてITリテラシーの高い方が巡回しやすいエリアじゃないかと予測していました。実際に来てみて、この予測はおおよそ合っていたなと思っています。むしろ、想像以上に業務上の基本的なパソコンスキルを持っている人が多かったです。

駒ヶ根市の人口は約3万2千人位ですが、日本にはこのくらいの規模の町はたくさんあるので、最初のモデルケースとしてもとてもいいチャレンジだと思いました。地方創生の中にクラウドソーシングを取り込むということは、IT業界で働く私にとってのミッションでもあったので、事業計画を作り、スタートしました。ありがたいことに、私が想定していた以上に伸びていると思います。

>>>中編に続く

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