"働きたくても働けない"を打破したい! 長野県駒ヶ根市が取り組むテレワーク事業とは? -中編-

"働きたくても働けない"を打破したい! 長野県駒ヶ根市が取り組むテレワーク事業とは? -中編-

2019年12月10日
編集部

長野県駒ヶ根市が、働きたくても働けない子育て世代のために始めたテレワーク事業。前半では、テレワーク事業をスタートするまでの話をお伺いしました。中編では、事業をスタートしてからの課題について、駒ヶ根市役所の同事業を担当している林さんにも参加していただきました。


──実際にテレワーク事業をスタートしてから苦労したことはありますか?

林さん: おかげさまだったのが、梶田さんは前職から会社としてテレワークやクラウドソーシングのセミナーを地方でやっておられたので、ノウハウがあるプロフェッショナルなんですよね。そこで、環境の整備と合わせて、人材育成や啓発的なことをセットで始めました。

初めて開催したセミナーでは、70~80名ほどの応募があり、反応はあるなと分かったのですが、そこからが問題で……。

最初は「コンピューターで稼げる=悪徳商法」というイメージを持つ人が多く、「あのセミナーには行かない方がいい」「怪しいことやってるんでしょ!」という噂も流れていたようです。しかし、このテレワーク事業は駒ヶ根市自体が参加していて、テレワークセンターの運営もクラウドワークスさんとステラリンクさんというIT企業2社に加えて駒ヶ根市も参加している。だから、セミナーでは市の名前も必ず出していたんです。すると、「駒ヶ根市が関わっているなら、大丈夫かな」と、心理的なハードルが下がった方が多いようです。

これがもし、企業が突然現れて募集するとなると信用してもらうまでがもっと大変だと思いますが、情報の流通はもちろん、そのようなうわさを払拭するためにも行政が関わらせていただけたことが入り口の課題をクリアできたきっかけだったかなと思います。

梶田さん: "テレワーク"とか"クラウドソーシング"と言っても、馴染みのない言葉だと思うので、「どういう意味?」という不安もあっただろうし、市が関わっていても、急に「パソコンを無料で貸し出しますよ! 家でできる仕事もあげます!」なんて言われたら、怪しいと思う気持ちもわかりますよね。そこをどうやって理解してもらおうかという点はすごく考えました。

また、私自身、男性なので、テレワーカーとして登録してくれた女性たちとうまくやれるのかっていう不安もありました。あとは、スキルの問題。でも、やる気とか人間性とかの方がずっと重要ですし、実際に一緒に働いてみて、スキルについては懸念するようなものではなかったなと。皆さん、しっかりと知識もスキルも身に着けてくださっていますね。

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駒ヶ根市役所の林さん

──最初のセミナーで70~80人も! 市の名前が出ていたことで安心感はあったと思いますが、そもそもどのように集客をしたんですか?

林さん: ほぼ唯一の集客手段が、学校でチラシを配ってもらうという人海戦術でした。そこに駒ヶ根市の力を全部注いで(笑)。

梶田さん: それでも、最初はこの広いテレワークオフィスにポツンと二人きりでしたよ。半年位は誰も来ませんでしたね。11カ月経った頃に、ようやく3~4人集まり始めました。

──なるほど! 子供が学校でもらってきたものなら、信用しやすいですね。実際にスタートしてから苦労したことはありますか?

梶田さん: 色々ありますが、1番大変なことは、シーズンごとに仕事量が変動することですね。メンバーがある程度集まってくることはわかっていて、月に2,500~3,000時間分の稼働力はあるんです。結構な稼働力ですよね。それを毎月全て使い切れているかというと、使い切れていない状況があります。

これは、運営側としては納品ずれをおこしてはいけないので、保守的にならざるを得ないんです。確実にできる量の案件しか受けることができないので、需要と供給のバランスをとるのがすごく難しい。このようにギリギリで調整しているので、翌月からその仕事がなくなってしまったら、すぐに別の企業から補うことは難しいので、どうしようもなくなってしまうんです。だから、ある程度継続的に定常業務に入り込めるような、ビジネスアウトソーシング的な外注の方が望ましいとは思うのですが、そのような仕事は少ないというのが現状です。

──働き手としても、新しい仕事をたくさんこなしたいというよりは、同じ仕事を継続したいという希望の方が多いですか?

梶田さん: そうですね。継続的な仕事を望んでいるママさんは多いです。やはり単発だと、せっかく作業内容やシステムを覚えてもそれっきりですよね。そればかりを繰り返すよりは、一度覚えたものを継続する方が、効率がいいですからね。

例えば、企業のレポートを校正する仕事があるのですが、内容によって校正にかかる時間が異なるため、お給料に対して割に合うものと合わないものが出てきます。それでも、ワーカーさんたちが続けてくれているのは、継続業務だからなんですよね。1度やり方を身につければ、ずっと続けれるところがいいんだと思います。

あと、案件に対して、どのワーカーさんならこなせるかという判断も、すごく難しいんです。事前に稼働アンケートはとっていますが、それも強制ではないので。現状、弊社は登録者数は200人位で、実際に月稼働できるのは50~60人。そのうち30人位は大体同じメンバーで、その他の20人位は入れ替わっています。このような状況なので、稼働調整はとても気を使っています。「今回は結構辛いな……。」という時もありますが、ある程度やってきて、「〇〇さんはこれ位やってくれるのでは?」という目安をつけられるようになったし、お互いの信頼関係も構築できてきたので、やりやすくなったなと思います。

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リゾート地としても人気の高い同市で、ワーケーション体験も!

──働く場所と時間を自由に選べて、安定的な仕事があれば、育児世代以外の方々にとっても嬉しいことですよね。

林さん: そうなんですよね。駒ヶ根市は、やはり雇用の種類が少ないので、進学を機に県外に行く若者が、なかなか戻ってきづらいという状況でもあるんです。もちろん、働きたい場所で働くことが一番だとは思うのですが、「育った町が好きだけれど、育った町ではやりたい仕事に就けない」という状況になるのは悲しい。だから、そこも打破していきたいですよね。若い世代が自己実現できる環境を作っていきたいと考えているし、クラウドソーシングを活用することで、少し近づけるのではないかと期待しています。

──その問題は、きっと多くの地方が抱えている問題ですよね。実際に、同じ理由で私も上京したので、その世代の気持ちもわかります。また、最近ではワーケーションにも力を入れているそうですね。

林さん: はい。ワーキングスペースの提供はもちろん、駒ヶ根市は自然も豊かですので、観光やアクティビティ、現地の方との交流などの支援もしています。"移住"となるとハードルが高いけれど、一定期間の"滞在"なら、気軽に来ていただけるのではないかと思いますので、ぜひ、多くの方々にご訪問いただきたいですね。

>>>後編に続く

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