"大人も楽しめる"を本気で考える!「ニジノ絵本屋」ってどんな書店?
2020年2月20日
編集部
東京都・東急東横線 都立大学駅から徒歩3分にある「ニジノ絵本屋」。個性豊かなラインナップを扱う知る人ぞ知る絵本の専門店です。絵本の専門店と聞くと「親子連れが多そう。」「子供向けのお店かな?」と思う人も多いかもしれませんが、同店の特長はなんといっても国内外で展開する絵本パフォーマンスをはじめとした「大人が楽しめる絵本屋さん」であること。そんな「ニジノ絵本屋」代表の石井彩さんに話を聞いてきました。「ニジノ絵本屋」って、どんな書店ですか?
■ニジノ絵本屋って、どんな絵本屋さん?
──今日はよろしくお願いします。まずは、「ニジノ絵本屋」の名前の由来を教えてください。
はい。店名の由来は「レインボー」です。絵本って、カラフルなイメージがありますよね。あとは、作り手と読み手をつなぐ架け橋になりたいという思いを込めて、この名前をつけました。
──最初から"絵本を置いている本屋"ではなく、"絵本屋"にしようと決めていたのですか?
まず、弊店は約3年前に現在の店舗(路面店)に移転していたのですが、それまでは、都立大学駅から徒歩2分の雑居ビル内にあったんです。当時勤めていた会社から、空いている1.5畳くらいのテナントで何か商売を始めてほしいという依頼があって、同じビル内に小児科や英会話スクールの託児所が入っていたことから、お子さんや家族連れが多くいらっしゃる環境だったので、"本屋"ではなく"絵本屋"を始めることにしました。
よく、「長年の夢が叶って絵本屋さんをオープンしたんですか?」ということを聞かれるのですが、正直、全くそんなことはなく……。「夢を叶えた」というよりは、「なりゆき」ですよね(笑)。
──そうなんですね。選書やディスプレイ、活動内容のどこをみても、とてもこだわっている印象があったのですが、実際には、絵本が特に好きだったわけではないんですか?
人並みには、幼少期に絵本にも触れていますよ。でも、特別な思い入れがあったわけではなくて、漫画を読むことの方がずっと多かったですね。
──なりゆきでスタートしたとはいえ、雑居ビル内のテナントから路面店にまで成長してきたわけですが、ここまで続けて来れたモチベーションはどこから来るんでしょうか?
そうですねぇ。絵本が特別な存在ではなかった分、良くも悪くも、そこに理想もこだわりもなかったのですが、唯一大切にしていたことが"人とのつながり"だったんです。それは、著者や出版社の方、ブックデザイナーの方だったりと様々なのですが、絵本を通して出会う人たちが本当に素敵な人ばかりで辞めるタイミングがなかったというか(笑)。
絵本がきっかけで広がる世界を、「もっとみたい!」と思わせてくれる人たちとの出会いが続いてきた結果、ここまできたというイメージですね。
──人との縁を大切にしてきた結果が、ニジノ絵本屋の絵本ラインナップにも表れているのかもしれませんね。
そうですね。それはすごくあると思います。「この人の本を売りたい」とか、「この人の活動をもっと知ってほしい」と思える作品かどうかが基準なので、「話題になっているから」とか「売れているから」という理由で本を仕入れることはないです。私たちにとっては、作り手の顔が見えることも大切なポイントなんですよね。
──人との縁以外で、絵本を選ぶ時の基準はありますか?
部屋の中に存在していても許されるというか、かわいい表紙の絵本を選んでいます。例えば、お客さんが来た時に片づけられる対象になるのは悲しいので、部屋の中に存在していても絵になる表紙であることも大切だと思っています。
──なるほど。店内の絵本も表紙が見えるように面で飾られているので、美術館のようでワクワクしますね。店内のディスプレイは、家で絵本を飾る時の参考にもできそうです。
■えほんLIVEに絵本ピクニック。大人のための絵本パフォーマンスを行う理由
──生バンドとの共演や絵本ピクニックなど、一般的な読み聞かせイベントに比べてエンターテイメント性が高いと思います。これは、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?
正直なところ、本屋さんが本の販売だけで利益を得ることって、とても難しいんですよね。そこで、ニジノ絵本屋に関わってくれている人たちが無理なく活動を続けていくために、どうすれば利益を生み出せるかを考えた結果なんです。普通の書店が開いてるようなイベントは、無料だったり、ボランティアの方が運営していらっしゃることも多いですが、私たちの場合は、どうすればそこに売り上げを作ることができるかを考えました。
エンターテイメント事業は7年前から始めたのですが、当時アルバイトとして働いてくれていた女の子が女優志望だったんです。そこで、その子に絵本の読み聞かせイベントに出演してもらったことがきっかけで、友人や紹介で出会ったミュージシャンや役者さん、作家さんなどとコラボレーションをすることで、より楽しめるイベントを目指し始めました。
出版業界が全体的に厳しい状況が続いていますが、縁をつないだ企画ができることは私たちの強みだと思っているので、これを継続していくためにも、誰かだけが得するのではなく、関わった人全員が得する仕組みを作りたいです。ぼんやり見えてきている感じはするけれど、もっとうまくできるはずだと思うので、日々考えています。
──最近では大人に向けた絵本イベントも増えてきていますが、ニジノ絵本屋では以前から大人も楽しめる絵本イベントが多い印象です。
そもそも絵本は子供のためだけのものだと思っていないんですよね。絵本イベントというと、子供向けの優しいイメージというか……。なんとなく、想像できますよね? もちろん、大人の読書好きや絵本好きのコミュニティも既にあると思うのですが、初心者というか「ちょっと興味ある」くらいの方がそこに参加するのは、きっとハードルが高くて敬遠しちゃうこともあるんじゃないかな。
でも、そんな人たちこそ「絵本=自分たちが楽しんでいいもの」だと気付いてくれたらいいなと思っているんです。そのための入り口はどんな形でもよくて、コーヒー、お酒、音楽が入口で絵本につながるかもしれないですよね。
例えば、「スパニッシュギターとドラムのかっこいいライブやってるな~」と思って立ち寄ったり、お酒を飲みに立ち寄ったら、絵本の読み聞かせをしてたというような、そんな新しい出会いにもとても可能性を感じています。
そのためには、大人である自分が楽しめるイベントであることが大切だし、大人が楽しめるという視点でのイベント企画にも注力していきたいです。やっぱり、お財布を持っているのは大人ですからね(笑)。
──大人になると、なかなか誰かに絵本を読み聞かせてもらう機会もないですし、読書は一人で楽しむものだと考える方も多いと思いますが、、ニジノ絵本屋のイベントだと「みんなと楽しむことができる読書」になりますね。
そうですね。でも、それは絵本だからなんですよね。例えば、漫画や小説だと複数名で読み切ることは難しい。その点、絵本だと1冊のボリュームもそんなに多くないので、気負わず他人と共有しやすいですね。
一冊の小説を読み切ることって、なかなか体力が必要じゃないですか。読書慣れしている人なら大丈夫だろうけど、最後まで読み切ることにプレッシャーを感じたり、最後まで読み切れないことに罪悪感を感じてしまう大人って結構いるんですよね。
私自身、活字が苦手なので「今日も読めなかったな~。」と、読めない自分を責めてしまうこともあります。本を購入したものの、読めないまま、どんどん本が積み重なっていったり、出張時に本を持ち歩いても、結局読めなくて落ち込んだり。
そんな大人たちに、絵本の魅力や楽しみ方をもっと知ってもらえたら、絵本の可能性はもっと広がると思うんですよね。
■絵本が他人事な人にこそ、届いてほしい。
──最後に、ニジノ絵本屋が紹介する絵本は、どのような人に届けていきたいですか?
これまで絵本が他人事だった人にこそ、届いてほしいです。子供の時から絵本好きで、大人になった人はいると思うんですよ。例えば、大学で自動文学を専攻していた人とか。でも、大人になってから絵本を好きになった人って、あまり多くないんじゃないかな?
でも、日本で育った大人の中で、幼少期に絵本に触れなかった人はほとんどいないと思うんです。学校や図書館、保育園や病院など、子供が集まるところには絵本がおいてあったはず。「え!? 絵本って何ですか!?」って人は、なかなかいないでしょう?
幼少期に絵本に触れて、大人になるにつれて絵本から離れて、「次、いつ絵本に出会うか?」と考えると、大体は自分の身近に子供ができた時なんですよね。そのタイミングで、また絵本に出会って、絵本を好きになる人はたくさんいる。でも、これだと子供きっかけでしか絵本に出会えないですよね。
ただでさえ、少子高齢化で子供が減っていく中で、大人が絵本と出会えるための入り口をもっと広げることができれば、絵本屋としての経営も続けられると考えています。
──ありがとうございました。
ニジノ絵本屋では、今回紹介したイベント以外にもユニークなイベントを開催しています。気になる方はぜひ、オフィシャルサイトのイベント欄をチェックしてみてくださいね。