テレワークを社内で普及させる方法とは? プロに聞く"課題とポイント"

テレワークを社内で普及させる方法とは? プロに聞く"課題とポイント"

2020年4月9日
新美友那

近年、政府の推奨もあり認知度が高まってきたテレワーク。しかし「導入したいが不安」「導入したが活用されていない」という悩みを抱える企業も多いようです。 そこで、そもそもテレワークとは何か、テレワークを導入・定着させるにはどうすべきかなどのお話を、株式会社テレワークマネジメントの田澤由利代表に伺いました。


■テレワークのメリットを得るには、普及のための工夫が必須

──まず、テレワークとはどのような働き方を指すものなのでしょうか。

テレワークは働き方の一種で、国の定義で言うと「ICT(情報通信技術)を活用して時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。オフィスから離れた場所で働くだけでなく、そうすることで仕事を効率化しましょうという意味が込められています。

テレワークは時間を有効活用できるなど、とてもメリットの多い働き方です。また、あくまでひとつの方法なので、会社に勤めているかどうか、内勤か外回りかに関わらず、全ての働く人が活用できる可能性があると思っています。

──幅広い層が活用できるとのことですが、そんなテレワークを導入するメリットを教えてください。

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テレワークを導入するメリットとは?

テレワークを通して柔軟な働き方が広がれば、少子化対策や社会的弱者支援、災害時対策にもなり、さまざまな社会問題が解決にも役立てる可能性があると思います。企業にも生産性向上や人材確保、ワークライフバランス向上といったメリットが見込めるでしょう。

また、災害や感染症の流行などの非常事態が起きた場合にも、テレワークが活用できていれば仕事は続けられますし、通勤時の不安も解消されますよね。都心部だけでなく、地方にもテレワークが普及すれば、都心の企業が「働きたいのに地元には仕事が少ない」という地方の方を採用できますよね。テレワークは企業にとっても、社員にとってもメリットがある働き方なんです。

──導入のメリットは多いようですね。テレワーク導入に伴い直面しがちな課題はありますか?

そうですね。「テレワークにすると社員がさぼってしまうのでは?」という質問をよくいただきますが、例えば弊社では勤務開始時と勤務終了時、中抜け時に着席ボタン・退席ボタンをクリックするだけで時間を記録できる勤怠管理システムを使用しています。そうすれば全体の勤務時間が足りない場合も、後で働くか時間休にするかなど、会社と相談して決められますよね。

また、「着席ボタンを押しているが仕事をしていない」ということが起きないよう、ランダムなタイミングで社員のPCのスクリーンショットを記録しています。移動中の管理に関しては、近々位置情報を取得する機能の追加を予定しています。

これを監視だととらえる方もいるかもしれませんが、例えば労災が起きた場合、いつどこで何が起きたかを把握する必要がありますし、通勤する場合はどれも把握されている情報ですから、そんなに変わったことではないんですよね。きちんと働いていれば問題ないわけですし、それは会社にいる時と同じことですよ。

──たしかに、監視や厳しすぎると感じる人もいるかもしれませんね。でも、逆にテレワークしている側も、自分がサボっていると思われる心配もなくなるということなので、余計な気を使わなくてよくなるかもしれませんね。

そうなんですよね。周囲に気を使ってテレワークを実践できなかったり、試しづらいという方も多いですね。

「テレワークが社内に普及しない」と悩まれる企業も多くいらっしゃいますが、導入するだけでなく、普及して初めてテレワークの数多いメリットが手に入るので、導入後の「普及・定着させる壁」を乗り越えることが重要です。

■会社全体で、テレワークに合わせた働き方改革が必要

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テレワーク推進の壁とは?

──テレワークを普及させるために、気を付けるべきことはありますか?

まず大切なことは、「テレワークでできる仕事を探す」だけでなく、「普段の仕事をどう変えたらテレワークでできるようになるか」を考えることです。テレワークを推進するにあたり、ぶつかる壁があると思います。

例えば、導入後にテレワークで思うような効果が出せず、「テレワークはだめだ」「うちには合わない」と諦めてしまう企業も多いのですが、効果が出ない原因は「テレワークでできる仕事が限られること」です。テレワーク向きの仕事といえば「切り分けやすい仕事」「集中したらはかどる仕事」「重要なデータが入っていない仕事」の3種類がよく挙げられますが、そうした仕事はもともと多くありませんよね。

そこで、既にある仕事の中から、できることだけをテレワークに移行するのではなく、普段の仕事への取り組み方から見直してテレワークを実現する必要があります。時間はかかるかもしれませんが、仕事のデータやツールを1つずつクラウド化するなど、少しずつテレワークでできる仕事や、既存の仕事をテレワークに移行するための方法を増やしていきましょう。そうすれば、5年後10年後にはテレワークでできる仕事が増えていくはずです。

もう1つ大事なポイントが、導入する際に、企業のトップが社員に「テレワーク導入は全社員のために行うこと」だときちんと伝えることです。テレワークは働き方改革の一環なので、社員の意識改革も必要になります。トップからのメッセージでは、以下の要素を伝えるとよいでしょう。

・テレワークを導入するのは、長く働き続けてもらうためであること。

・しかし、とても大変な作業で時間もかかる。社員全員の協力が必要。

・まずは特定の条件を満たす社員から始めるが、全社員に普及するために、先に挑戦してもらうという認識。

大切なのは、「会社の未来のためにも一緒に取り組んでほしい」という想いを伝えることです。

──テレワークを導入する際には、どのような規模感で始めると良いでしょうか?

まずは、育児や介護など「テレワークをする必要性がある人」がいる部署全体で、普段の仕事をデジタル化していきましょう。その対象者がテレワークで普通に働けるような環境を目指すとよいでしょう。

規模については、どの程度のシステムを導入するか、また、どの程度の労力をかけられるかという状況に合わせて決めるといいと思います。まずは、テレワークの必要性のある人を含む1つのチーム(部署、係など)から始め、そこから普及させていくと将来につながるのではないでしょうか。

スタートする部署については、本当はどこでもいいんです。前述したように、最初にしっかりとトップメッセージを伝えて社内の意識を統一しておくことの方が大事ですね。

── 導入後、テレワークの社員と出社している社員とのコミュニケーションのポイントはありますか?

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テレワークを特別な環境にしない努力を!

テレワークの普及を目指すなら、テレワークでも出社していても、上記のようにいつも通りの仕事のコミュニケーションができる環境を作ることが理想です。web会議やチャットは便利なツールですが、会社でのリアルなコミュニケーションとは少し異なりますよね。

例えば弊社では、テレワーカーのスピーカーは常時オンにして、皆の声が常に聞こえるようにしています。その際、マイクはコミュニケーションを取りたい時だけオンにして「○○さん、あの件ってどうなった?」と聞いたりします。すると、それを聞いた本人が答えてくれたり、周りの皆が代わりに答えてくれたりします。

雰囲気としては、同じ部屋の中でちょっとした質問を同僚や上司にできるような環境ですよね。テレワークのメリットを得るためにも、年単位で時間がかかってもいいので「テレワークでも会社でも、いつも通りの仕事ができる状態」を目指して欲しいところですね。

■今年は間違いなく、テレワーク普及のチャンスであり岐路

──今後、テレワークの普及はどのような展開になると思いますか?

正直まだわかりませんが、東京オリンピック・パラリンピックの開催と、新型コロナウイルスの流行が同時に来た影響はとても大きいですよね。いずれも「1~2日テレワークをすればいい」というわけではないので、より長期間のテレワーク導入を検討する・しなければいけない状況になった企業も増えています。

テレワークの認知度もようやく徐々に上がってきた今、各企業がテレワーク導入の目的をちゃんと認識して動き始めれば、日本は変われるんじゃないかと思います。今までのテレワークで効果が出なかった原因を多くの企業が認識し、対策して動き始めるという意味で、今年はテレワークにとっての岐路だと思います。

──オリンピックやパラリンピックだけでなく、今回の新型コロナウィルスのような感染症の流行などは、今後も起こりうることです。そんな時でも、全ての働く人が少しでも不安を減らすことができるように、柔軟な働き方が根付いた社会を作っていけるといいですよね。本日は、お忙しいところありがとうございました!

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