【連載】今夜は、ほろ苦いカフェオレと。 ―第1回―「私が通ってきた『働く』という道」

【連載】今夜は、ほろ苦いカフェオレと。 ―第1回―「私が通ってきた『働く』という道」

2020年1月30日
ナカセコ エミコ

第1回 「私が通ってきた『働く』という道」 毎日頑張って働いているけれど、これで本当に良いのだろうかと迷ったり苦しくなったり。どんな人にも、そんな夜があるものです。 ほろ苦いカフェオレを淹れたら、心を少し緩めてみて。あなたらしい明日を迎えるために、今夜はちょっと立ち止まってみませんか? 書評家・絵本作家のナカセコエミコがお送りする、眠れない夜に読みたいエッセイです。


はじめまして、ナカセコエミコといいます。私は日頃、書評の執筆や選書サービスなど、働く女性向けの本にまつわる事業をしています。

本連載では、私自身がこれまで歩いてきた日々を振り返りつつ、ほろ苦いカフェオレを飲むように、ちょっと一休みしたり考えたりする場所にできたらと思っています。

■本が好きだった少女時代と現実

今回は少し長くなりますが、自己紹介をさせてください。

私は、幼い頃から本が好きで、本に関わる仕事をいつかしたいと願っていました。しかし、就職した時期はまさに氷河期といわれた時代。本ばかりにはこだわってはいられず、銀行に就職。やがて、空きが出たことをきっかけに、司書として図書館に転職しました。 司書になって3年半がたったころ、私がもとめていた本の仕事と、司書の業務に内容の乖離を感じるようになってきました。司書の仕事はあくまで本を管理すること。それ以上でも以下でもないことにだんだんと気づき始めたのです。

司書の仕事に物足りなさを感じ、ダブルワークで働いていたもう一つの会社(物販)から、そのタイミングで辞令が出ました。当時住んでいた東海地区の支社から東京本社に異動することになったのです。生まれ育った故郷を出て、縁もゆかりもない東京に移り住むことに不安がないとはいえませんでした。でも、司書の仕事をここで卒業して、新たなフィールドに出るいいきっかけになると感じたのです。 本社では、流通管理、商品企画、イベント運営など、いろいろな業務に15年近く携わりました。 その間、27歳のときに結婚。30代になると仕事が面白くてたまらない時期に突入。夫の理解が大きかったこともあり、どっぷりと仕事にのめり込んでいきました。

34歳で初めて管理職になってから40歳までの間は、一つ一つの役職を与えられるごとに部下が増え、扱う組織が大きくなり、悩みごとも同時に増えていきました。

■組織で積み上がる経験と起業への思い

私たちの世代は、ポスト団塊の世代ジュニアといわれ、個性が強いバブル世代とゆとり世代の狭間に位置しています。主張の強い世代に囲まれ、職場でもいろんな意見を調整して物事を進めていく立ち位置を常に求められてきました。今のようにワークライフバランスが大事にされる世相でもなかったので、いろいろな意味で無理をして頑張らなくては、結果が出せない時代でもありました。

とはいえ、仕事そのものは大変でしたが、女性だからという理由で仕事内容を差別されなかったことは幸せなことであったと感じています。20代のころから海外出張の機会をたくさん与えられ、商品企画に携わる期間が長かったこともあり、クリエイティブに関わる多くの経験をさせてもらいました。 当時の上司によく言われたのは「企画というクリエイティブと数字の組み立て。両方がそれなりにできるのがあなたの強み。さらに、書類や文章がうまく作れる、会議を仕切れる、マネジメントができる、部署間の調整が取れる。満遍なくいろいろなことをできるようになれば、さらなる強みになる」という言葉。きっと私は組織で定年までやっていくのだろうと感じていました。

でも、心の底でずっと思っていたこともありました。「いつか起業したい」ということ。経営者だった祖父から、「商売をするのに向いているから、商いの勉強をしなさい」と、かつて言われた言葉が、常に心の何処かにあったからです。

その祖父が亡くなり、祖父の会社も後継者がいないという理由で、跡形もなくたたまれました。形は変われど、そのメンタリティを継承しなくてはいけないという気持ちに後押しされて、40歳にして長く勤めた会社を退職 することを決意しました。私にとってそれは、大きな決断でしたが、周囲もまた、天と地がひっくり返るくらいに驚いていました。

■どんな道を歩くのか、自分自身で決めるために

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どんな靴(道・職業・生き方)でも、あなたはその時々で好きなように、自由に選んで、履いて、歩いていけばいい。

始めの1年は個人事業主として活動し、その後すぐに法人化。退職してから、もうじきまる4年が過ぎようとしています。事業内容は、子どものころから漠然と夢見ていた本の仕事。そこに「働く女性」としての悩み事にアプローチしていくというコンセプトをプラスしました。

会社員として過ごした年月があまりにも長かったので、一人で会社や事業を起こして経営していくということが、あらゆる意味でこんなにも孤独で大変なものかと思うときもあります。

でも、私の強みは器用貧乏と、何かと何かをつなぐスキル。自分自身に力が足りなくても、よき人に相談しながら、小さな一つ一つをうまくつなげていけば、何か違うものに転じていくことがよくわかってきました。これは会社員時代の経験がやっぱりすごく生きていて、苦しく悩み抜いた一つ一つの体験は、確実に地肉になっていると感じます。

不毛に苦しいことからは、長居しないでさっさと逃げた方が良いこともあります。しかし、働く上で起きる苦難のいくつかは、あとでじんわり効いてくることもけっこうあるものです。 ただ、一人で長く悩みを抱え込んでいるのは、あまりよくありません。誰かに話して、話しながら頭の中を整理する。そして、どう進むのかは自分で決める。それさえちゃんとできていれば、どんな失敗も回り道も、未来を作る大事な糧になるといえそうです。

変化が激しく確実な成功フォーマットはない時代だからこそ、自分が後悔しない道を歩くということが、より大事になっていくように感じるのです。

執筆者プロフィール
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FILAGE(フィラージュ)代表。 書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」 “季節の本屋さん”を運営中。twitterInstagramも更新中。