【連載】そんな夜に読みたい絵本 -第4回- 「支えてくれた人に感謝を伝えたい夜に」

【連載】そんな夜に読みたい絵本 -第4回- 「支えてくれた人に感謝を伝えたい夜に」

2019年7月3日
ナカセコ エミコ

今日も1日働いて、小説1冊、映画1本を見るほどの時間や元気はない。でも、このまま1日が終わるのもなんだかさみしい。そんなあなたへ、短い時間で読むことができて、1日の終わりを少し特別なものにしてくれる絵本をご紹介します。今夜の絵本は、「幸せが何なのか、知りたくなってしまった夜に」です。


第4回 「支えてくれた人に感謝を伝えたい夜に」

「そんな夜に読みたい絵本」第四回目のテーマは、「支えてくれた人に感謝を伝えたい夜に」です。 これまで、自分を支え応援してくれた人たちに、「ありがとう」を伝えたくなるような絵本をご紹介します。

■ピンチをチャンスに変える強い思い

吉家千陽作『野心家の葡萄』 は、世界一になることを夢見ている一粒の葡萄が主人公。シックなイラストとともに、英語が添えられているバイリンガル絵本です。

次から次へと場所を変えて、チャンスを手にする力は大事なスキルでしょう。でも、今いる場所の温かさというものは、なかなか気づけないものなのかもしれません。

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主人公は、世界一になることを夢見ている野心家の葡萄。

そんな果物屋のおじいさんに、大事に育てられた葡萄は野心家で、
自分の人生がこのまま果物屋で終わるのは、我慢がなりませんでした。
(1ページより引用)

昔むかし、一人で果物を育てて売っているおじいさんのもとにいた葡萄。大事に育ててもらったのに、このままでは終われないと野心を燃やしていました。

ある日、果物屋の軒先からお腹を空かせた烏(からす)にさらわれた葡萄は、ピンチにも関わらず、一か八か烏の喉に飛び込みます。驚いた烏は葡萄を吐き出し、無事に脱出できたのです。

■分不相応な夢でも絶対諦めない

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久しぶりの話し相手に喜んでいた鯨は、少し寂しく感じました。

久しぶりの話し相手に喜んでいた鯨は、少し寂しく感じました。
しかし、この無邪気で無知な野心家を。あたたかく送り出すことに決めました。
(10ページより引用)

烏の口から脱出して、運良く年老いた鯨の背中に落ちた葡萄ですが、世界一になりたい野心は相変わらず。鯨は潮を吹いて、空飛ぶ鶴の羽の上に送り出してくれたのです。物知りな鶴もまた、葡萄の野心を聞き、世界一葡萄で有名な国の葡萄畑に連れていってくれました。

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ところが、世界一の葡萄園の葡萄たちからの反応は……。

ところが、野心家の葡萄は、世界一の葡萄園で育てられた宝石のような葡萄たちから、その野心を鼻で笑われてしまいます。

■支えてくれた人に「ありがとう」を伝えよう

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そして、生まれて初めて感謝の気持ちが芽生えました。

そして、生まれて初めて感謝の気持ちが芽生えました。
ここまで運んでくれた、お腹を空かせた烏や年老いた鯨、物知りな鶴に。
美しい景色や星空、神々しい夜明けの光に。
それから、育ててくれた果物屋のおじいさんに。
(28ページより引用)

長旅を終えた野心家の葡萄は、いつしかボロボロに。世界一になれないなんて考えたこともなかった葡萄は、驚き悲しみました。

ところが、隣の畑の葡萄と一緒にワインとして生まれ変わるチャンスを手に入れたのです。

大事に育ててくれた果物屋のおじいさんに初めて感謝できた葡萄は、世界一のワインになって、再びおじいさんのもとに送られることになります。

夢に向かってひた走っているときにはわからなくても、多くの経験をすることで気づけることもあります。今まで自分を支えてくれた人たちに、「ありがとう」を伝えてみませんか。


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『野心家の葡萄』

タイトル: 野心家の葡萄
著者: 吉家千陽
発行: ニジノ絵本屋
定価: 1,500円(税抜)


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執筆者プロフィール
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FILAGE(フィラージュ)代表。 書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」 “季節の本屋さん”を運営中。twitterInstagramも更新中。

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