【連載】そんな夜に読みたい絵本 -第5回-「大事な人を失って悲しい夜に」

【連載】そんな夜に読みたい絵本 -第5回-「大事な人を失って悲しい夜に」

2019年7月17日
ナカセコ エミコ

今日も1日働いて、小説1冊、映画1本を見るほどの時間や元気はない。でも、このまま1日が終わるのもなんだかさみしい。そんなあなたへ、短い時間で読むことができて、1日の終わりを少し特別なものにしてくれる絵本をご紹介します。今夜の絵本は『100年たったら』です。


第5回「大事な人を失って悲しい夜に」

「そんな夜に読みたい絵本」第五回目のテーマは、「大事な人を失って悲しい夜に」です。

かけがえのない大切な誰かを失ったとき、「きっと、いつかまた会える」と、誰しも思いたいものです。そんな奇跡を信じたくなる絵本をご紹介します。

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『100年たったら』 石井睦美文/あべ弘士絵

■身分や立場が違っても生まれる友情がある

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主人公は、広い草原に住む一匹のライオン

石井睦美文/あべ弘士絵『100年たったら』 は、広い草原に住む一匹のライオンが主人公です。しかし、草原にはライオン以外の生き物は誰もいません。

動物たちを追いかけていたころを懐かしく思い出しながら草を食べて過ごす日々。いつも一人ぼっちで孤独でした。

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ある日、小さくてボロボロになった、一羽のヨナキウグイスが草原に降り立ちました。

ある日、小さくてボロボロになった、一羽のヨナキウグイスが草原に降り立ちました。

「わたしは もうとべない。あんた、おなかがすいているんでしょ?
わたしをたべたらいいわ」

ライオンは すこしのあいだ 鳥を みつめた。

ちいさなからだ。ぼろぼろのつばさ。

(6ページより引用)

ライオンは、鳥を食べませんでした。それどころか、その日から、ライオンと鳥は一緒に暮らすようになったのです。

鳥はライオンに歌を歌い、ライオンはたてがみの中に鳥のねぐらを作りました。

ライオンから見たら、弱ったちいさな鳥はいとも簡単に一飲みにできる存在です。ところが、二人の間には確かな友情が芽生えたのです。しかし、鳥は次第に体力を失っていきます。

■悲しいお別れと交わした約束

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「また あえるよ」と、鳥はいった。

「また あえるよ」と、鳥はいった。

「いつ?」 いきおいこんでライオンがきいた。

鳥は こたえられない。

「ねえ、いつさ?」

「うーん、そうだね、100年たったら」


(12ページより引用)

命の灯火が、まもなく消えようとしている鳥。悲しみに暮れるライオンに、100年経ったらまた会えると鳥は語り、歌いました。

100年がどのくらいなのか、いくら考えても分からないライオン。しかし、相手を思いあう強い気持ちは、時間を超えて奇跡を起こしたのです。

100年後、ライオンは岩場にはりつく貝に、鳥は海のちいさな波になりました。

さらに100年後、ライオンは3人の孫がいるおばあさんに、鳥は孫娘が持ってきた赤いひなげしの花に。

しかし、その出会いには、いつも悲しいお別れがついてまわりました。

■思い合っていればまた出会える

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そうして なんどめかの100年がたったとき──

そうして なんどめかの 100年がたったとき──

ライオンは、男の子として うまれた。

鳥は、女の子として うまれた。


(28ページより引用)

やがて、ライオンだった男の子と、鳥だった女の子は小学校の校庭で出会います。男の子は、なんだか前に会ったことがあるみたいだと思いました。

命には限りがあり、大好きな人と過ごす楽しい時間は、人生において短い時間なのかもしれません。しかし、互いを思い合っていれば、きっといつかまた出会える。

そんな奇跡を、思わず信じたくなる絵本です。


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『100年たったら』

書影画像
タイトル: 100年たったら
著者: 石井睦美文/あべ弘士絵
発行: アリス館
定価: 1,500円(税抜)


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執筆者プロフィール
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FILAGE(フィラージュ)代表。 書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」 “季節の本屋さん”を運営中。twitterInstagramも更新中。

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