【連載】そんな夜に読みたい絵本 -第6回-「自分の存在に自信がなくなってしまった夜に」
2019年8月2日
ナカセコ エミコ
今日も1日働いて、小説1冊、映画1本を見るほどの時間や元気はない。でも、このまま1日が終わるのもなんだかさみしい。そんなあなたへ、短い時間で読むことができて、1日の終わりを少し特別なものにしてくれる絵本をご紹介します。今夜の絵本は『あかり』です。
「そんな夜に読みたい絵本」第六回目のテーマは、「自分の存在に自信がなくなってしまった夜に」です。
自分の存在なんて忘れられているのではないかと、自信がなくなってしまう夜はありませんか。「大丈夫。きっと、誰かに伝わっている」と、そんな風に思える絵本をご紹介します
■幸せなときも辛いときにも寄り添ってくれる存在
新しいろうそくが、初めて照らしたのは、生まれてまもない赤ちゃんと家族でした。
火を つけてもらうたび、女の子は だんだん せいちょうして 大きくなっていきました。
ろうそくは 火を もやすたび、すこしずつ すこしずつ 小さくなっていきました。
(8ページより引用)
次に火をつけてもらったのは、赤ちゃんが一歳になった誕生日のこと。少し大きくなった赤ちゃんが笑うと、ろうそくは嬉しくなって火を揺らし微笑みました。
ことあるごとに、ろうそくの火は灯され、女の子の成長を見守ってきました。月の光や灯台の光のように大きな光を放つことはできなくても、いつも女の子の心に寄り添い続けたのです。
■女の子とともに年を重ねたろうそく
やがて 女の子は 大人になり、いえから でていく ときが きました。中略
ふたを あけると、みおぼえのある 小さくなった ろうそく。中略
女の子は そっと かばんに いれました。
(21ページより引用)
それからもろうそくは、女の子の新しい家族や大切なときを照らすために、火をつけてもらいました。
しかし、家が新しくなって煌々と明かりがつくようになると、ろうそくに火が灯ることもなくなっていったのです。
ろうそくは木箱に入れられたまま、長い時間を棚の奥で過ごすように。自分はちっぽけで、役に立たないから忘れられてしまったのだと、ろうそくは悲しい気持ちになりました。
■どんな命にも意味がある
もう いま どこに いるかも わすれそうになった ある日。
きばこの なか いっぱいに ひかりが さしこんできました。
(28ページより引用)
長い期間、一人ぼっちで箱の中にいたろうそくでしたが、ある夕暮れ時、久々に火が灯されました。目の前には、静かにろうそくを見つめるおばあさんの顔が。おばあさんは、あの女の子だったのです。
おばあさんは、ろうそくに静かに語りかけました。おひさまよりも、お月さまよりも、心の一番奥までそっと届くその明かり。照らしてくれて「ほんとうにありがとう」と。
「わたしの ともす 小さな あかりを だいじに おもってくれる ひとがいた。うまれてきて ほんとうに よかった」
さいごの 火が いま、しずかに きえました。
(31~32ページより引用)
長い人生において、目に見えて必要とされているときと、自分なんて必要ないのではないかと感じてしまうときと、さまざまにあるものです。それでも、誰かのために向けた優しい心は、たしかに届いているはずです。
どんな命にも意味があり、必要なんだと感じさせてくれる絵本です。
書影画像
タイトル: あかり
著者: 林木林文/岡田千晶絵
発行: 光村教育図書
定価: 1,300円(税抜)
FILAGE(フィラージュ)代表。 書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っている。「働く女性のための選書サービス」 “季節の本屋さん”を運営中。twitterとInstagramも更新中。